心理療法統合ハンドブックの序文を転載しました!

心理療法統合ハンドブック序文

 

 まず何よりも「とうとう出ました!」と言いたい。

心理療法統合ハンドブック

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本書は、我が国初の統合的心理療法の総合的ハンドブックである。これまで、日本語によるこのような書籍はなかった。

 

かなり以前から「統合的心理療法を学ぶのにこの一冊と言ったらどの本ですか?」という質問を受け続けてきたが、そのたびにパッとは答えられなかった。そんな私だったが、これからは迷わずこの一冊を胸を張ってお薦めできることとなった。

 

本書は、日本心理療法統合学会監修として、この学会の主だったメンバーを中心にして執筆された。

 

本学会は2019年にできた新しい学会ではあるが、その前身は2005年からの「心理療法統合を考える会」(関東地方)、そして2010年からの「関西折衷的心理療法研究会」(関西地方)として、さらに2014年からは2つの研究会の交流会である「東西の会」を年1回開きながら、研究と実践そして対話を重ねてきた。

 

また、国際学会「Society for Exploration of Psychotherapy Integration(心理療法統合を探究する学会:通称SEPI)への参加や発表を積極的に行ってきた。2020年には、本学会の理事の一人である岩壁茂が、このSEPIの理事長としての重責を果たしている。

 

この主だったメンバー達は、たまたまさまざまな学派の出身者であり、元々は認知行動療法や力動的心理療法、分析心理学(ユング派)や人間性アプローチ、家族療法、ブリーフセラピー等々の専門家であった。このようなメンバーが学会の第I期理事となり、仲良く議論しながら学会運営を進めている。

 

上記の研究会や国際学会での対話を通じて実感し続けていることは、「心理療法統合を目指す臨床家は、謙虚で調和志向な人が多い」ということである。

 

とかく「統合」という言葉は、かなり野心的で自我肥大した印象を与えるかもしれない。

 

けれども私たちの使う「統合」は本書を一読すればわかる通り、とても謙虚な「クライエントの役にできるだけ立ちたい」という思いに貫かれている。「折衷」という言葉を使うこともあるが、これも「妥協」の意味ではなく「積極的に一定の見識の下で、より良いものを組み合わせて使い分ける」という意味である。

 

本書も上記と同様の姿勢から企画・執筆された。

 

本書の第Ⅰ部は「心理療法への統合的アプローチとは」と題して、心理療法統合の多様なあり方と考え方について縦横に論じたものとなっている。

 

そして、第Ⅱ部は「確立された統合的心理療法」として、すでに有効性が検証された確立した最新の統合的心理療法を6つ紹介し、日本における実践例も紹介している。

 

第Ⅲ部では「心理療法の多様なアスペクトの統合」として「研究と実践の統合」、「倫理・社会正義・政治と臨床実践との統合」というより大きな広がりを持った視点を紹介した。

 

さらに第Ⅳ部では「トレーニング」として、統合的心理療法を実践する臨床家を育てるためのトレーニングはどのようなものであるべきかについて、その実践例とともに紹介されている。

 

また、章と章の間の随所に「トピックス」として、各章においては十分に解説できなかった心理療法統合において重要な最新の項目を数ページで記述・解説するコーナーを設けた。

 

多様性を重んじる本書の立場から、文体や論の進め方は各執筆者にかなりお任せし、編者の杉原・福島は企画と構成、更に内容的なチェックと読みやすい文章にすることに注力した。

 

結果的に本書はどの章やトピックスを読んでも、そこに人間の多様性に根ざした多元主義的な視点と、「違い」に対する寛容な態度が伝わると思う。

 

そして「違い」に対して寛容でありながら、その違いを過度にアピールするのではなく「共通点」や「類似性」にも開かれているという、心理療法統合を志向する我々の基本姿勢も本書のいたるところに溢れていると感じていただけたなら幸いである。

 

 心理療法統合とは特定の学派に依拠するものでも、単一の学派の存在を否定するものでもない。そして、多様な個性と課題をもったクライエントにできるだけ効果的にアプローチしようとするものである。あるいは、そのような姿勢そのものやそのようなアプローチを探求するプロセスや営みそのものを指す言葉だといえる。

 

このような姿勢は、まさに21世紀の世界が夢見る共生と融和を目指した価値観を体現しているともいえると同時に、一方で分断と非寛容が進みつつある現実へのささやかではあるが、確信的な抵抗ともいえる。

 

 そしてこの様な、多様性を認めながら共通点も見出して繋がっていくというあり方は、日々、自らの態度を自省してこそ継続できるものだと思っている。間違っても「統合的なあり方だけが唯一正しい」と主張するような自己矛盾に陥らないようにしなければならない。

 

それは本書の第II部で紹介している確立された統合的心理療法に関しても同様で、「統合的〇〇療法だけがいつでも最強だ」といった自己矛盾の罠に、本書の読者諸氏も陥らないようにしていただきたい。

 

現実は常に複雑で多様だ。

 

そして現在の心理療法の世界は400種類を超える心理療法が並存するまさに熱帯の森のような多様性を持っている。その中で「何でもあり」の混沌ではなく、「より効果が高いかどうか」「クライエントのお役に立てるかどうか」というある意味で厳しい生存競争を内包した、豊かで風通しのいい森を夢見て、本書の編集作業を進めてきた。ぜひ、この多様な森の世界をご堪能いただき、実践に生かしていただけたなら幸いである。

 

 

日本心理療法統合学会 理事長

 

福島哲夫

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