2020年から2021年の新型コロナウィルス感染症を予防するために「ソーシャルディスタンス」(あるいはソーシャルディスタンシング)という言葉が流行りました。人と人とが適正な距離を取ることによって感染を防ぐ、つまり、近づきすぎて「密」になるのを避けようという言葉です。
けれども、適正な距離を取るべきなのは、何も身体だけではありません。
実は心理学の世界では、母子関係に代表される「自他未分化な状態」から次第に「分離個体化」して、心理的に自立したあり方になるという過程が、大人になるための必須のプロセスとして大切にされてきました。
このように心理学的に自立した個人は、適度に甘え合い・支え合いながらも「相手との適正な心の距離を保っている」という心のソーシャルディスタンスを守れている個人であると言えます。
けれども、この「心のソーシャルディスタンス」は、このコロナ禍の外出自粛で失われている場合をしばしば目にします。
それは、夫婦や親子、そして恋人や親しい友人の間において特に問題となっています。
2020年の前半は特にこの問題で、オフィスにおいでになるカップルが急増しました。そう、その代表的なものがいわゆる「コロナ離婚危機」です。
プライバシー保護のために、一般的な共通部分だけを書かせていただきますと、どのカップルも、「相手は〇〇してくれて当然のはず」という思い込みや過度の期待が問題の根本にありました。暗黙の期待と言ってもいいものです。
カップルカウンセリングや個別カウンセリングを通して、それぞれの求めていることを探っていくと、「家事」「子育て」「外出」「他の人との付き合い方」などに集約されるということがわかってきました。つまりこれらの領域に関して、普段からあったお互いの期待のズレがひたすら拡大しているのが、「コロナ離婚危機」でした。
これは、ご夫婦に限らず、恋人、親しい友人の関係でも同様でした。もちろん、恋人や友人の関係では、家事や子育ては問題にならないのですが、「〇〇してくれて当然」とか「〇〇はしないで欲しいのに(でも、言えないor溜め込んで激しく爆発してしまう)」ということが問題となることに変わりはありませんでした。
そこで、多くのカップルには、下の表のような「3つのお願い表」を書いていただきました。
書き直せるように鉛筆と消しゴムを用意して、「是非やってほしいこと」(つまりすぐにでも実行してほしいこと)、「出来たらやってほしいこと」(近い将来やってほしいこと)、「遠い将来やってほしいこと」の3種類をお互いに話し合いながら記入していっていただくというものです。
3つのお願い表
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さん |
さん |
お子さん(たち) |
遠い将来やって欲しいこと
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出来たらやって欲しいこと
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是非やって欲しいこと
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メモ
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この表を、カウンセラーの私も見ながら、時々あまりにも無理のあることが書かれていたり、お互いの量や難易度に差がありすぎた場合には、調整役として介入します。
多くのカップルが、遠い将来の目標であるべきことを、一足飛びにすぐにやってほしいこととしていたり、是非やってほしいことに到底無理な要求を書いたりする傾向があります。
お子さんがいて、そのことの関係についても悩んでおられる場合には、一番右の欄に、カップルで相談して記入してもらいます。
お子さんのことは問題になっていなくて、しかも、お願いが混乱している場合には、カウンセラーからのコメントがすでに書かれている下のような表を呈示して、話し合ってもらいます。
3つのお願い表(コメント付き)
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夫さんから妻さんへ |
妻さんから夫さんへ |
カウンセラーから |
遠い将来やって欲しいこと
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癒しあい、ねぎらいあえる関係を作ってください。 |
出来たらやって欲しいこと
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一足飛びに大きな目標を達成しようとせずに、スモール・ステップを心掛けてください。 |
是非やって欲しいこと
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たとえば ① お互いに多彩なうなずき、あいづちで15分程度話を聴く。 ② 少しでもできるようになったことはすかさず褒める。 ③ 「ありがとう」、「ごめんなさい」、「嬉しい」、「助かる」、「オッケー」を常用する。 |
メモ
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この作業をするだけで、お互いに対する暗黙の期待が視覚化され、「○○してくれて当然!」という自他未分化な欲求から、「○○してもらえるととっても幸せ」という自立した大人同士の支え合いになっていけるのです。
事実、このワークシートを、話し合い書き直ししながら記入して何回か検討を重ねることで、コロナ離婚を避けることができただけでなく、それまでよりもよりよい関係を築いていかれたカップルもたくさんいらっしゃいます。
(もちろん、これだけでは解決しないカップル、これを書きながら相手の理不尽な要求に気づいて、離婚の意思を固めた方もいらっしゃいます)
どうぞ、皆さんも活用してみてください。